どんな研究をしてたの?その2 養殖サーモン市場の周期性

という事でその2です。

今回は修論で扱った「養殖サーモン市場の周期性」です。

まず日本では割りと地味な扱いをされている養殖、特にサーモンの養殖が今如何にアツい業界なのかをさらっと説明したいと思います。

世界のシーフードの消費というのは下の図(source:FAO statistics)の通り1950年から人口の増加や経済の発展による食文化の分散により右肩上がりで、現在では約1億8000万トンが年に消費されています。

しかし、その消費を支えている生産の種類は次第に自然によるものから養殖へと変化してきています。1970年代までは天然の魚で殆ど供給を補っていたものの、その後は9000万トン程度で安定し、それ以降の供給増は主に養殖に頼っているのが現状です。

天然の魚は資源保存の観点から一定以上の量を取ることができないので、ある程度以上の需要の増加には対応出来ません。よって今後この9000万トンよりも収穫量が高くなることは殆ど期待出来ません。

 

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つまりですね、基本的に今後の需要増は全て養殖で賄わなければならないわけで、世界経済が成長して水産物の需要が増え続ける限り養殖業界は成長してゆくわけです。

そんな中サーモンはどんな立ち位置なのかというと、まさに一人勝ち状態。水産物全体の養殖の成長が1970-2011年にかけて2000%程だったのに対して、アトランティックサーモンは580000%。

下の図はアトランティックサーモンの養殖全体に対する供給量と供給価値のシェアを示しています。2000年以降供給量のシェアは2%程度ですが、価値のシェアは7%程と他の種よりも高価値な商品であることを示しています。

 

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この成長はサーモンが養殖業に適した種であったために起こったと言われています。サーモンは他の種に比べ市場での価値が高く、身のほとんどが商品化出来るために利益率が高くなります。この事が多くの研究や投資を呼び起こして1970年代に養殖の技術革新がノルウェーで引き起こされました。

サーモンの養殖は水温等の環境が非常に重要であるために実行できる場所が世界でも限られています。ノルウェーはその条件を満たしていた上に、気温の低さが冷蔵庫ストの低下をもたらすために他の場所よりもコストの面で有利です。(養殖場のおじさんはこれがノルウェーで革命が起きた理由だと言っていましたが、どーなんでしょ。)

 

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技術革新が起き、さらなる研究により養殖の生産コストはどんどん低下してゆきました。2000年に入った当たりでコストの低下は止まっています。この壁を打ち破るには遺伝子改造したサーモンを養殖するしか無いなんて話が出てたりします。

さてそんなこんなで技術革新でコストが下がり、価格が下がりつつも高い利益をあげられるようになり、ノルウェーの一大産業として成り上がったわけです。

 

 

さて、以前から養殖のサーモンの価格には周期性がある事が指摘されていました。
短期では季節性があり、長期では数年サイクルで上昇トレンドと下降トレンドを繰り返しています。

 

export and local price of salmon

 

経済学はcobwebモデルというこの周期性を説明しうる理論を持っていました。ここではサーモンの養殖を実際の例にして説明したいと思います。

サーモンの養殖は以下の様なステップの繰り返しになります。

  1. 孵化
  2. 稚魚育成
  3. 稚魚を生簀(海)に投入
  4. 餌を与える(2年)
  5. 収穫&販売

以下はこれを絵にしたものです。

スライド05

この黄色い養殖業者を仮にマイク君としましょう。
マイクは専門の会社から孵化してある程度育った稚魚(smolt)を購入してきます。
そしてそれを生簀に投入(input)して2〜3年掛けて育て、それを収穫して市場で販売します。そしてこのサイクルを永遠に繰り返して行きます。

さて、マイクはこの流れの中で2つの意思決定を行わなくてはなりません。
1. どの位の量の稚魚を投入するか?
2. いつ収穫するのか?

稚魚の投入を決定するためには利益最大化問題を解かなくてはなりません。掛かる餌代等は既に分かっているのですが、2年後3年後にサーモンが幾らで売れるのかはわからないのが問題です。
もしマイクが先進的な金融会社に努めていたのならその価格予想モデルを組んで意思決定を行うことは可能ですが、マイクは一般的な養殖業者なのでそのようなスキルは持っておらず、今年売れたサーモンの値段を参考にするしかありません。

よってここに「今年値段が高ければ2年後・3年後も高いだろう」という非常に単純な意思決定が発生します。そして値段が高い場合スケールアップ(逓増:生産規模を拡大する程に次の追加生産のコストが高くなること e.g 生産規模を2倍にするとコストは2倍ではなく3倍。4倍にするとコストは7倍といった感じ。)するコストもある程度カバーできるので、生産規模は増大することになります。

という事でこのマイク君はレプラコーンを見つけたと思って生産規模を増大させます。

スライド08

 

スライド09

 

However… なんですね。

しかしながら、価格は何もマイクだけに与えられるものではなく、全ての養殖業者共通のものなので他の養殖業者も同じ判断をしてくるわけです。
すると2年後には市場への供給が溢れかえってしまい、価格は下がってしまうことになります。

そしてマイクくんは下がった価格を見てこう思うわけです。
「やべぇ、生産規模を縮小しなきゃ。」

スライド11 スライド12

そして奇しくも同じ事が起こってしまうわけです。
今度は価格が供給減によって上がってしまいます。

もうこの哀れなマイク君が何を考えるかお分かりでしょう。
ええ、高い価格を見て生産規模を拡大してしまうのです・・・。

結果下のように生産を増やして減らしてを繰り返し、それに応じて価格も高くなって安くなってを繰り返すことになります。

スライド14 スライド15 スライド16

cobwebモデルとは、このような仕組みを数学モデルに落とし込んだものです。
cobwebが適応されるには3つの点が必要とされています。
1. 商品が保存不可能若しくは保存に大きなコストがかかる
2. 生産規模の決定が過去の価格によって左右される
3.生産に長い時間がかかる。

サーモンは生物であるため保存はコストが非常に高く、生簀においておく場合も餌代が掛かってしまいます。もし容易に保存が可能であれば、マイクくんは価格が低いと思ったら次の年やその次の年までサーモンを取っておけば済んでしまうわけです。
そして、生産がすぐに終わるシロモノであれば、価格に合わせて生産量を調整することが出来るので、上で説明されたようなサイクルは起きません。
そして上で説明した通り、生産規模の決定は過去の価格を元に行われます。

単純なモデルで書いてみると

Supply_t = a + b * Price_(t-2)

Demand_t = c + d * Price_t

といった感じです。
今年の供給(supply_t)は2年前の稚魚の量に左右され、その稚魚の量はその年の価格によって左右されます。そしてサーモンは保存ができないので生簀の中にあるものはその年中に売り切らなければなりません。
よって、今年の供給量は2年前の価格(Price_(t-2))で説明することができます。

需要の量は価格によって変化するので2つ目のモデルで説明することができます。

そして需要と供給の量は必ず一致するので、

Demand_t = Supply_t

となります。

これを図で表すと下のようになります。

スライド2

 

 

最初価格が2つの線の交点にある均衡価格よりも高いAから始まるとします。
生産者は価格P1を見てQ1を生産するのですが、サーモンは2年かかるので実際の供給は遅れてしまいます。そして2年後には過剰供給を引き起こしてしまうため、価格はP2へと落ち込みます。
P2をみた生産者は生産量をQ2まで落とし、結果二年後には過小供給を引き起こします。

こうして図のようにQ1からQ4まで、P1からP4まで移動してゆきます。そして、A,B,C,Dと移動して行きます。この移動の時に引かれる線がまるで蜘蛛の巣みたいに見えるのでcobwebと呼ばれるそうです。

ちなみに上の図では価格が均衡価格へと収束していっていますが、発散してゆくケースもあります。その条件を分けるのは需要・供給曲線の傾きの強さです。

 

さて、僕は上で出した3つのモデルをもう少し発展させ、いくつかの需給に関するcontrol variableを入れた統計モデルも作ってそれを推定しました。(詳細についてはここでは割愛します。)

結果この需要曲線と供給曲線を推定し、価格周期がこのcobwebモデルによって説明できることを実証しました。

price est and real 4 with currency rate

 

 

データサイエンティスト御用達ツールエクセルで、モデルのモンテカルロ(多分)シミュレーションをしてみた結果です。実は為替レートがこのサイクルの半分くらいを構成しているので、山と谷の部分は似通って来ます。
個々で大事なことは価格の変動幅が大体同じであるか否かですので、まぁまぁなモデルだったのかなと思います。

本当は複数回シミュレーションして区間とか出したかったです。

 

もし時間があったら、このサイクルをどうやったら無くすことが出来るのか?について考えてゆきたいです。恐らく魚の数に応じて課税したりすることで生産規模の拡大を行うインセンティブを減らすことが出来るので、適切な課税量を計算したりできたなと思います。

 

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