TURNのExternality-based advertisement bid adjustmentについて。

こんな記事が出ていたので気になってTurnの出した特許の書類を読んでみました。

そもそも読もうと思っていた背景としては、記事の一番上に出ているExternality-Based Advertisement Bid Adjustmentが大学院でやっていた環境税の話と強い関係があったからです。

内容についてはそれなりに注意を払って上記の書類を読み理解して書いていますが、僕の解釈が足りないが故に間違ってしまう部分もあるかもしれないです。

その点はご容赦&ご指摘頂ければと思います。

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1. 取り敢えず概要。

結論TURNがどんなアイデアを持っているかというと、「情報の欠落があるbid requestを低く値付けしたい」と言う物です。

bid requestにはユーザーの性別だったりURLだったり観閲履歴だったりと様々な情報がのせられます。

DSPはそれらの情報を元にユーザーがどの程度CVをしそうなのか?を推測して、その程度に応じてユーザーの値付けを行い、入札を行っています。

ここで問題となるのは、DSPが必要としている情報がbid requestに欠落している場合です。

ちょっと極例ですがコスメ系の広告を出稿する為の入札をしたい時にrequestの中に男女のデータが入っていなかったらどうなるでしょう?

「入札しないっしょそんなの」って言いたいでしょうが、ちょっとこらえて入札しなければしないとすると、欠損しているデータには最頻値か平均を仮の値として入れてしまうケースが多いです。

仮の値なので、当然その値が合っている保障はありません。

よって、その値を元にして推測した「どの程度CVしそうなのか?」もその精度が保障されません。

仮に5%のCVRであるという結果が得られ、目標CPAが10000円として、CPCを500円で入札するとします。

しかし仮の値が間違っていて本当のCVRが2%だったとすると、クリックの価値が200円しか無いユーザーを500円で買い付けている事になってしまいます。

結果、bid requestにデータの欠落があるという事象が広告出稿側の効率を損なってしまう事になります。

TURNはここでbid requestを受け取った際にデータの欠損を確認して、欠損している変数の種類に応じて返す入札の価格を落とす事を考えています。

例えば性別だったら5円、URLだったら10円、履歴だったら20円、といった感じです。

DSPが欠損のあるrequestに対して低い入札を返し続けると、メディアは結果として収益が下がってしまい、収益を取り戻す為にその欠損を解決する為の努力を行う事になります。

よって、この「欠損に対してペナルティを課す」というアイデアがメディアの収益維持のインセンティブを刺激して、結果的に欠損しているrequestを世の中から少なくする事を想定している訳です。

と言うのがまぁ一連の発想な訳でございます。書類の中にはこんな感じの事と、これをどういうフローで行うか?とかの詳細が書いてあります。

察しの良い方は気がつくと思うんですが、この枠組みは恐らく一つのDSPだけが行っても意味がありません。が、これに関しては書類の中で言及されてはいないので後述と言う事で。

 

以下は僕が考えてる事とか解説的な話なので、別に内容以外興味なければ読む必要は無いかと思います。

 

2. ベースとなっていると思われる外部性について

 

Externality-based advertisement bid adjustmentのExternalityってなんすか?って言う話です。(書類内ではタイトル以外に使われていませんが・・・こういうExternalityじゃなかったらどうしよw)

Externalityとはある商品が消費・生産された時に発生する副次的な価値の事を指します。(正確な定義はリンクなりミクロ経済学なりの教科書を見て下さい)

例えばある工場が車を生産しており、生産の際公害物質を出しているとします。

この公害物質は生産されている車の外部性なわけです。

この工場がただただ周りを見ずに車を市場に送り、市場の力に任せて与えられた価格で売り続けた場合、この外部性は一切考慮されません。

でも社会的な目線で見たときそれで良いのでしょうか?きっと駄目ですね。

理想としては、その外部性を価格に入れ込んだ状態を作りたいわけです。

外部性を価格に入れ、値段をつり上げて、車の需要を減らし、工場の公害が減る。

ただ、工場の人が外部性の分だけ値段を上げて、その追加徴収分を工場の近くの住民に配ると言う事は期待で来ません。(そのままポケットに入れちゃいますよね)

逆に車を買う側の人が工場の公害の事情を察して購入時に工場の近くの住民に寄付するでしょうか?これもやはり期待で来ません。(ポケットに・・・)

なので車の売り手でも買い手でもない第三者が値段を上げて、徴収分を住民に配るという機能を果たします。通常は政府が第三者として働き、値段を税金という方法でつり上げます。

問題になるのは、税金でどのくらい値段を上げるべきなのか?です。

仮に工場が車一台を作る際に発生する公害のダメージを費用換算した分だけ課税すれば、取引する際の税金が上乗せされた価格は公害分も含んだ適正な価格となります。

こうやって外部性に応じて税金を書ける事をピグー税と言ったりします。

ピグー税の大きな利点の一つは、外部性を出している側にその経済的な価値が税金として明示されるため、税金を回避させるインセンティブを発生させる点にあります。

つまり、車の生産1台に5万円の税金が掛かれば、工場は1台当たり49999円のコストが生じる公害削減の対応策までなら採用する事で利益を守る事が出来ます。

 

3. TURNのExternalityについて

さて、今回TURNが行った事はまさにこのピグー税なわけです。

工場側がbid requestを出しているメディア側で、消費者且つ住民なのがDSP(アドキャンペーン)です。

現在は500円で取引されている物が、情報の欠落を実は起こしているが故に200円の価値しか無いので、TURN税を掛ける事で取引価格を200円に是正しようという事です。

一点注意しなければならないのは、ここで500と200の差額をTURNが中抜きしているとかって訳ではないです。単に返す入札を強制的に下げているだけです。

もうちょっとまとめると、

  1. まずあらかじめデータの欠損に大しての税金の額を決めておきます。(決め方は後述)
  2. 欠損したデータが来ても一度CTR/CVRの予測を行って、値付けを行います。(500円)
  3. この値段を税込みの価格として考え、値段から税金の額をひきます。(500円-300円=200円)
  4. 税金の分がひかれた額を入札として返します。

というフローです。

 

4. 想定されるメディアのリアクションと税金の決め方

さて、この税金が施行された場合、メディアはどんなリアクションをするのでしょうか?

想定されている物としては、上で書いた「下がってしまった収益を取り戻す為の努力」つまり欠損をなんとかして埋めるというものです。

が、これが本当に起きるかは状況で違ってしまいます。

仮に世の中に広告枠の買い手が一つのDSPしかなければどんな額の税金を掛けても、メディアはこの努力をします。(合理的には)

つまり、男女の欠損に対するペナルティが5円だと解れば、欠損したリクエスト数*5円までのコストが生じる対応策までであれば実行するインセンティブがメディア側に生じます。

仮にペナルティコストが2000円だとすれば、2000円までの対応策を講じる訳です。

つまり、理論上は税金が高ければ高い程メディアに対応策を講じさせる強制力が強まります。

ただ、やはりそうは問屋が卸さない訳です。

DSPが二つある状態を仮定し、一つのDSPのみが2000円のペナルティを課したとします。

もしメディアが枠を卸すDSPを変更・限定するコストが非常に低ければ、このペナルティを課しているDSPから課していないDSPへとrequestを集中させる事になります。いわゆるPollution Heavenですね。

なので、DSPは自身がビジネスをしているという制約上このbid requestの変更コストよりも低くなる様にペナルティを設定しなくてはなりません。

ただ、二つのDSPが同時にペナルティを課せばこの移行を行うインセンティブが発生しなくなるので、メディアはペナルティに応じて対応を行う事になります。

よって、単体ではなく他のDSPと連携してこの枠組みを作って行く事が重要になります。

今回TURNがわざわざ特許を取ってアイデアをオープンにしたのは、この枠組みを作るという最初の歩みなのではないかなと僕は考えています。

 

5. Lemon Bid Request の時代

この流れの背景になっている物として、メディアがデータをちゃんとユーザーデータを揃えてそれをbid requestにのせられるという時代があるかと思います。

一見上の話だけを見ると、「そういう時代を作る為の話じゃないの?」って思うかもしれません。ある程度その文脈も含んでいるかと思います。

が、上記の書類の中ではメディア側にはbid requestを送るコストを押さえる為に、メディアが送るデータをわざと欠損させるインセンティブが存在していると述べており(8ページめの4-20あたり)います。

僕がメディアだったらまず先に考えるのは、価値の下がりそうな情報はあえてbid requestから落としてしまうという手法です。

今回提示されているアイデアを需要側が合同で導入すればそういった行為を行うメディアの収益はどのDSPを選択しても下がる事になるので、規制が上手く掛かる事になります。

今まで本当は駄目なリクエストもソコソコの金額で掴まされていたって考えれば、まぁ当然の流れの一つだなと思います。

 

 

 

感想的な物をちゃんと書きたいのだけれども、そろそろ会社行かなきゃなんでこの辺で切り上げます。

多分後で追記します。

質問議論等あればツイッターなりfacebookなりで連絡ください。(コメント欄スパムだらけなのでw)

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